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モータはどうして回るの?

(2022年02月04日)

 モータが回る原理を説明するとき、古くはNS極の永久磁石を用いた固定子と、ブラシと整流子を経由して電流を銅線に流す回転子を使っていました。これは直流モータが回る原理の説明ですが、現在 直流機はほぼ使われなくなりました。交流モータに取って代わられてしまったのです。
 ということでこのページでは、いきなり交流でモータが回る原理を説明することにします。ここでのキーワードは「永久磁石・インバータ・回転磁界」の3つです。一般の人もなんとなく、交流モータが回る理屈を分かってもらえたら幸いです。

<電流と磁界と電磁力の自然法則>
 モータが回る原理を考える前に、まず 磁石の性質、電流と磁界、電磁力などの自然法則を確認しておきましょう。
◆ 永久磁石の性質
 永久磁石にはN極とS極があり、異極は互いに引きあい、同極は互いに反発します。磁石が吸引したり反発したりする力を「磁力」といい、右図のように磁石のまわりに磁力が働いている空間を「磁界」といいます。
 現在の最強の磁石は「ネオジム磁石」で、ネオジム(Nd)-鉄(Fe)-ボロン(B)などを組み合わせたものです。発明者は佐川真人氏(現大同特殊鋼顧問)で、2022年度の英国「エリザベス女王工学賞」を受賞しました。

◆ 電流が流れると磁界ができる
 銅線に電流が流れるとその回りに、自然法則に基づいた磁界ができます。右図は右ねじが進む向きに電流が流れると、ねじを回す向きに磁界がでることを示しています。これを「右ねじの法則」といいます。

◆ 電流と磁界と電磁力の法則
 モータが回ったり発電機が電気を作ったりする自然法則があります。下図左はモータに適用されるフレミングの左手の法則で、下図右は発電機に適用されるフレミングの右手の法則です。この2つの法則で モータは右と左のどっちだった? と迷うことがあります。そうならない覚え方を伝授します。
 この図はいずれも 中指=電流、人差し指=磁界、親指=力 となっています。ならば、「左モータ・右ジェネレータ・電磁力」と口調で覚えるのです。ジェネレータは発電機、電磁力の「力」は指で最も力強い「親指」と覚えます。

<直流モータが回る原理>
 古くは右図のような模型で、モータが回る原理を説明していました。赤と青で示すNS極の永久磁石(固定子)を固定して、その中に置いた銅線(回転子)に電池からブラシと整流子を経由して電流を流します。
 フレミングの左手の法則を適用すると、銅線には緑色で示す力が働いて銅線は回転します。銅線が半回転したとき整流子で電流の向きが切り替わって、同じ方向に回転を続けます。
 こんな直流モータは主として電車の駆動用として、およそ100年近く働き続けてきましたが、今ではその姿を消してしまいました。交流モータに取って代わられたのです。今となっては使われなくなった直流モータで、回転原理を説明することに意味はない?・・・

<ブラシと整流子をなくす工夫>
 直流モータが使われなくなった原因は、回転子に電気を供給するブラシと電流の向きを切り換える整流子の保守が難しいからです。ところで、回転子と固定子は相対的な関係ですから、上図で回転子と固定子の双方を入れ替えてみます。それが右図です。
 右図では回転子は永久磁石ですから電気の供給は不要です。固定子の3つの巻線に120°ずれた電圧を加えると、2極の回転磁界ができます。この回転磁界については後で詳しく説明します。
 固定子と回転子の磁極は、互いの同極は反発し 異極は吸引する力が働いて、回転子は回転磁界と同期して回転します。別途回転磁界を作る電子回路が必要になりますが、回転子にブラシや整流子のない実用的なモータの誕生です。
 こんな原理で回るモータを一般に「同期モータ」といいますが、より正確には永久磁石同期電動機(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)と呼ぶと間違いが少ないでしょう。2000年ぐらいまでは回転磁界を作る電力用の半導体がなかったこと、ネオジム磁石のような強力な永久磁石がまだ少なかったこと、などから身近に同期モータを見ることはありませんでした。最近では多くの家電品にこんな同期モータが多用されるようになりました。

<家電品でいうDCモータとは>
 DCは直流(Direct Current)を、ACは交流(Alternating Current)を意味します。私は前々項で直流モータは「今では使われなくなった」と書きましたが、家電品の世界では「DCモータ」の用語が氾濫しています。ないはずの直流モータが使われている?
 右図のような扇風機をPRする言葉が、ネット上に溢れています。
 『扇風機を回すモータはDCモータとACモータの2種類があります。DCモータはそよ風のようなやわらかい風を送り出し、微風から強風まで風量も調節できますが、価格は少々高くなります。一方、ACモータは速度が「強・中・弱」の3段階で価格も安価です』、 こんな具合です。

 実は、扇風機などの家電品でいうDCモータは、前々項で説明した直流モータとは原理的に全く異なります。この扇風機には右図右のような同期モータと、右図左のような「インバータ」と呼ばれる電子回路がプリント基板に載って、同じ筐体に収められています。
 インバータは直流から3相交流を出力する電子回路で、同期モータにつないで速度制御をします。実際の扇風機のDCモータの筐体を分解すると、右図のようなモータ部分と電子部品を載せたプリント基板がでてきます。プリント基板の反対側(モータのコイル側)は位置検出用のホール素子が3個あります。

 上記の扇風機ではインバータと同期モータが同じ筐体に入っていますが、エアコン・冷蔵庫・洗濯機などでは、構造上の都合でインバータと同期モータは別の筐体に納めます。それでも家電業界では、こんな学術上の同期モータをDCモータと呼んでいます。
 こんな永久磁石を使った同期モータは、インバータがなくてはモータとして働くことができません。そのインバータへの入力は直流ですから、同期モータを「DCモータ」と呼ぶのも分かる気はします。意識して本来の直流モータと区別するときは、少し丁寧に「ブラシレスDCモータ」と呼ぶこともあります。
 ただ、このページは技術的な解説文書ですから、こんな呼び方は避けて学術的な用語を使うことにします。ちなみに、同じ家電業界で「ACモータ」といえば、「誘導モータ」のことを指すようです。モータといえばこの誘導モータの時代が長く続いてきましたが、今ではブラシレスDCモータが、ほぼ誘導モータに取って代わりました。

<家電もEVも電車も3相交流モータが使われている>
 エヤコン・洗濯機・冷蔵庫などの電源は100Vの単相交流ですが、機器内のインバータで3相交流を作り3相交流モータを回しています。EV(電気自動車)も下図のように直流のバッテリー電源から、インバータで3相交流を作り3相交流モータを回しています。
 大都市の地下鉄や都市間電車は直流750Vや1500Vを受けて、インバータで3相交流を作り 3相交流モータを回しています。地方の2万V交流電化の電車や 2万5000Vの新幹線は、車内に積んだ変圧器で降圧し、インバータで3相交流を作り3相交流モータを回しています。
 モータには多くの種類がありますが、現在よく使われるのは3相交流モータです。3相交流モータは構造が簡単で安価、しかも高効率で働きます。3相交流モータの代表は、最後の項で述べる同期電動機と誘導電動機です。

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 ここまでモータが回る定性的な原理を学んできました。そして今使われているほとんどのモータはインバータを経由していること、インバータは直流を受けて3相交流を出力すること、従ってモータのほとんどは3相交流モータが使われること、こんなことを俯瞰してきました。「インバータ」については「パワーエレクトロニクスの旗手-インバータ」に詳しい解説があります。
 ここからは今まで学んだ内容の中から、一般には馴染みの少ない3相交流のすごいところ、3相交流によってスムーズな回転磁界ができる驚き、3相交流モータには働き者の同期モータと誘導モータがあること、こんな内容を少し詳しく学ぶことにします。

<3相交流の妙>
 単相100Vしか来ていない一般家庭でも、今私たちが使っているモータは、ほとんど3相交流モータであることを知りました。こんな状況ですから、モータが回る詳しい原理は3相交流モータでするのが現実的な説明になります。
 まず、3相交流のすごいところを話します。右図上の左側が3相電源(インバータの出力も基本的に同じ)、右側が3相交流モータと考えます。右図下はその3相交流モータのUVW3つのコイルに加わる電圧で、それぞれ120°の位相差があります。これが一般的な3相交流の電源と負荷の関係です。
 改めて右図上で点線を含めて眺めると、単相3つが120°ずれて接続されていると見ることもできます。右図下の3つの相を図上で足し算すると、どの瞬間も電圧はゼロになります。すなわち、右図上の点線で示す電線は不要なのです。(実際の3相インバータ回路では、商用電源と異なり中性点に電位を生じますが、以降の説明に関係しないので詳しい説明は省略します)
 単相が3つなら6本の電線が必要になるところを半分の3本で済ませて、しかも単相3つが120°ずれているので回転磁界を容易に作ることができるのです。次項の内容も含めて、3相交流の「ミソ」というか「妙」を味わってください。

<3相交流は回転磁界を作る>
 3相交流モータの固定子にはコイルが3つありますが、分かりやすくため上図UVW相3つのコイルのうち1つU相のみで考えてみます。右図左側の○は固定子のスロットで中にコイル(黄色)が2重に巻かれています。
 U相が+のとき、右図左側は固定子の電流が青矢印の向きに流れているとします。このとき右図右側の正面から見た図では、電流の向きを「×と●」で示します。×印は正面から画面の向こう側に電流が流れることを、●印は画面の向こう側から正面に向かって電流が流れることを示します。このときコイルが作る磁界の向きは、赤矢印の向きになります。

 ここで位相がそれぞれ120°ずれた3相交流で考えてみます。下図は3相交流UVW相の特定の時点で磁界の方向を示しました。ある瞬時の磁界の向きを順次調べると、磁界が左方向に回転することが分かります。
 3相交流は3相巻線をした固定子に、回転磁界を作るのです。なお、電源UVW相のいずれかを入れ替えると、回転磁界は反転してモータは逆回転します。

 さて、回転磁界の速度を「同期速度」といい、単位は通常rpm(revolution per minute)を使います。その速度は次式になります。 同期速度 rpm = 120×周波数/極数
従って、2極モータの同期速度は 50Hzで3000rpm、60Hzで3600rpmになります。4極モータでは 50Hzで1500rpm、60Hzで1800rpmです。

<同期電動機と誘導電動機>
 長い間モータの設計をやってきた私からすると、同期や誘導の用語がモータの頭につくとチョッと安っぽく感じられるので、同期電動機や誘導電動機と呼びたくなります。この項だけはそう書くことにします。
 さて、同期電動機は固定子の回転磁界を、回転子の磁石が追随して回転することを利用したもので、回転原理は極めてシンプルです。上図は2極の回転磁界の固定子と、2極の永久磁石の回転子を持つ同期電動機が、左方向に同期速度で回転している状況を示しています。上図左は無負荷で回転している状態で、回転磁界のS極N極と永久磁石のN極S極が一直線上にあり、このときトルクはゼロです。上図右は回転子に負荷がかかって回転している状態で、回転磁界のS極N極に対して永久磁石のN極S極が、負荷角δ だけ遅れて回転磁界と同期して回転します。

 次に、誘導電動機の回転原理を見ていきましょう。まず、下図にかご形3相誘導電動機の構造を示します。左端は珪素鋼板の固定子巻線、次は珪素鋼板を重ねた回転子素材、次は回転子のかご形2次巻線(通常はスロットにアルミを鋳込む)、右端がかご形回転子の完成品です。
 
 誘導電動機の固定子巻線に3相交流を加えると、固定子の回転磁界によって回転子導体に起電力が発生して そのアルミ導体に電流が流れます。この電流と回転磁界の間に電磁力が発生し、回転子は回転磁界の方向に引っ張られて回転を始めます。
 誘導電動機の回転速度とトルクの関係は右図のようになり、同期速度ではトルクはゼロになります。このとき回転子に負荷をかけると、速度は同期速度より少し遅れて回転します。この遅れる程度を滑り(スリップ)と呼び %で表します。この滑りは通常は定格トルクのあたりで数%ほどになります。

 最後に交流電動機の固定子の巻線方法を見ていきます。上図の誘導電動機の固定子巻線は、従来の一般的な巻線法になっています。あらかじめコイル状の巻線を作っておき、まとめて順次スロット内に収める方式で「分布巻」といいます。この方式は磁界の分布が正弦波に近くなるので、大型の同期電動機や誘導電動機に広く使われています。
 これに対して上右図(再掲)の同期モータの固定子は、鉄心の凸極に直接コイルを巻くように作ってあり、こうして磁極を作る方式を「集中巻」といいます。この方式は磁界の分布が方形波になりますが、巻線などが安価に作れるのでいわゆるブラシレスDCモータに多用されています。

(謝辞)
 このページの多くの画像はネット上から借用して加工しました。右図のように「ブラシレスDCモータ」で検索して、その直下の「画像」を選択すると、多くの関連する画像が現れます。
 借用した画像作者のURLは不明ですが、みなさんにお礼申し上げます。



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