<IT情報・身近な電気のなぜ?> IT情報TOPヘ

身近な電気の安全-接地(アース)

(2021年12月18日)

 電気を安全に扱うための接地といえば、誰しも家電機器の筐体を接地することを考えるでしょう。ただ、日本の配電系統全体の安全を考えるとき、もう一つ柱上変圧器の2次側の低圧線の接地に行きつくのです。この2つの接地は、電気の安全に欠かせない法で決められた接地なのです。
 今回は私どもの安全な電化生活に、2つの接地がどのように寄与しているかをみていきます。

<身近な電気の接地は2種類ある>
 日本の電柱の電線は右図のように、上から高圧配線の3相6600V、低圧配線の単相3線式100/200Vと順に設置されています。変圧器(柱上変圧器)は高圧を低圧に降圧して各家庭に届けます。なお、人が誤って電線に触れても安全なように、高圧線と低圧線は絶縁電線を使用しています。
 また、柱上変圧器の低圧2次側(3線式の中性点)は、電柱の近くで接地(アース)されています。高圧線が誤って低圧線に触れても、低圧線の対地電圧(大地を基準にした電圧)の上昇を抑え、電力系統の安全を守るための接地です。生きている電線を接地するので、直感的には奇妙に思えるかも知れませんが、法で決められた大事な接地で「B種接地」といいます。
 私たちが通常よく見るのは電気機器の筐体の接地で、これも法で決められており「D種接地」といいます。単に接地といえばこの筐体の接地のことと思っている人も多いでしょう。それほど電気機器の筐体の接地はポピュラーな接地です。

 次に、これらの接地の効用を羅列しておきます。下記のような電気の安全を生み出す接地の効用は、以降の項目を読んでいただくと容易に理解できます。
・高圧6600Vが低圧100/200Vに触れても対地電圧を150Vにまで抑えてくれます。
・機器の絶縁破壊による感電や漏電での人体への危険性を抑えてくれます。
・機器の絶縁破壊による漏電を検出したら直ちに電気回路を遮断してくれます。

<柱上変圧器の2次側接地-B種接地>
 地球はとてつもなく大きな導体ですから、もし電位の差があれば直ちに電荷が移動して、その電位差を解消して同じ電位に保たれるはずです。地上を立って生活する人の電気の安全を考えるとき、大地を電位の基準(ゼロ)とすることは理に叶っています。接地(アース)とは、文字通り地球(earth)と接続することです。この大地と生きた電線を接続すれば 電位は低い値に安定します。国内の低圧線はこんな接地系で安全を保っているのです。
 前項で述べたように日本の電柱は高圧線の下に低圧線が走っているので、台風などで高圧線が切れて低圧線に触れる恐れがあります。また、変圧器内部で1次側巻線と2次側巻線の絶縁が破壊して、高圧が低圧側に印加する危険もあります。こんな高圧線が低圧線に触れることを「混触」といいます。
 この混蝕の危険性をできるだけ小さく抑える接地が、柱上変圧器の低圧2次側(3線式の中性点 または2線式の1線)に施すB種接地です。省令「電気設備技術基準」には、次のようなB種接地の規程があります。電路は原則として大地から絶縁しなければならない。ただし、高低圧混触による危険を回避する場合はこの限りでなく、混触時の対地電圧を150V以下に抑えるよう定められています。

 右図は柱上変圧器のB種接地と、家屋内の電気器具(負荷Aと負荷B)の一般的な配線図を示しています。家庭に届く3本線は3色に色分けして使います。 中性線が白、他の2本は黒と赤です。中性線と他のいずれかの線を使えば100V、黒と赤の線を使えば200Vになります。
 そして中性線がB種接地されているので、正常時の3本線の対地電圧は、中性線はゼロ、他の2本の線はいずれも100Vになります。

<高低圧混触のとき電流の流れる先は?>
 日本の配電線は系統全体の安全を考慮して、低圧線はすでに述べたように接地系であり、そして高圧線は非接地系としています。高低圧の混触時に対地電圧を150V以下に抑えるB種接地とは、どんな仕組みか調べてみましょう。
 さて、実際の高圧線は広範囲に亘って張られており、電線と大地間に浮遊する静電容量が無視できません。3本線それぞれの浮遊容量をC、B種接地抵抗をRとして右図のような等価回路を考えます。高圧線が低圧線に混蝕したときの地絡電流は、変圧器の2次側のB種接地から大地に流れ、高圧線の浮遊容量を経由して高圧線に戻ります。

 具体的な地絡電流と接地抵抗の計算方法を示します。上図で高圧線間電圧:V=6600、B種接地抵抗:R、浮遊容量/線:C、角周波数:ω とすると、地絡電流:Ir は次のようになります。
 Ir = (6600/√3) ÷ {(1/j3ωC) + R}
 ただし、6600/√3 = 高圧線対地電圧 、1/j3ωC = 一般に数1000Ω、R = 一般に数10Ω
 従って、Ir ≒ 6600√3ωC [A] = 数アンペア
 このように地絡電流Ir は実質的に浮遊容量のみで決まります。そして混蝕時の対地電圧を150Vを越えないようにする接地抵抗Rは、地絡電流Irの値から自ずと決まります。なお、浮遊静電容量のデータは各電力会社で保存しているようです。また、B種接地工事の多くは電柱の近くにしますが、土地事情により他機器の接地と共用することもあるようです。

<電気機器の筐体の接地-D種接地>
 電気機器の絶縁が悪くなって、筐体の金属部分に電圧が直接かかったとき、筐体の金属部分に人が触ると感電します。このとき人の立っている足元が湿っていたりすると、人にも電流が流れて非常に危険です。
 こんな危険を防止するために、家庭内の洗濯機、エヤコン、暖房便座などは接地が必要です。これが 300V以下の電気機器の筐体に施すD種接地です。この接地は直径1.6mm以上の緑色の被覆電線を使用し、接地抵抗を 100Ω以下にする必要があります。ただし、電気機器を対地電圧が150V以下で乾燥した場所で使用する場合は不要です。

 下図(NTT東日本サービスから転載)は B種接地は存在するという前提で、D種接地の意味を分かりやすく示しています。下図左は機器の筐体に漏電が発生していますが、D種接地線が切断されており、そこに人が触れてビリビリと感電しています。こんな様子が描かれています。
 下図右上は「D種接地なし」です。漏電が発生したとき、人の接触電圧(対地電圧)は100Vで危険な状況です。下図右下は「D種接地あり」です。漏電時の電気の流れは、AC100V~機器筐体~D種接地~大地~B種接地~柱上変圧器2次側の中性点に戻ります。このとき大地表面の電位 は、おおむね図の 緑色破線 のような勾配の電位になります。その結果、人の接触電圧(筐体と大地の電位差)は小さくなり、大地に足をおく人の感電の度合いを大きく抑えることができます。

(注: D種接地の論理)
 『漏電した電気は人を経由して大地へ流れるよりも、電気機器の筐体から接地線を経由して大地に流れる方が抵抗が小さく多くの電流が流れます』。 筐体接地の効用をこのように書いたネット上の記述をよく見ますが、間違いではないものの正確な説明にはなっていません。
 上図右下(D種接地あり)で、漏電時の「大地表面の電位」を示す 緑色破線 を注意してみてください。漏電で大地を踏む「」の電位が高くなり、「」が触れる筐体との電位差が小さくなって、人に流れる電流は大幅に小さくなります。上図右上(D種接地なし)と比べると、人にかかる接触電圧が大幅に小さくなっています。人の足の電位が高くなると危険が増すように見えますが、実はその逆なのです。

<漏電遮断器の仕組み>
 前項では機器の筐体に漏電が発生したとき、D種接地があれば人体への感電の度合いを抑えられることを学びました。漏電が発生したとき、直ちに電源を遮断できればさらに安全です。
 右図は電気機器(自販機)の絶縁が破壊して漏電したときの、漏電遮断器が働く仕組みを示しています。正常時は零相変流器を通る電流は、行き帰り同じ(変流器の1次側電流はゼロ)です。ただ、自販機に漏電が発生すると電流は行きと帰りに差が出ます。この差を漏洩電流といいます。
 この漏洩電流は自販機の筐体~D種接地~大地~B種接地~柱上変圧器2次側の中性点にバイパスします。すなわち、変流器の1次側に漏洩電流が流れるので、その2次側巻線にも電流が発生します。この2次側の電流が漏電遮断器として動作すべきレベルを超えたとき、電磁装置を働かせて電源を遮断します。
 なお、変流器とは電流の大きさを検出するもので、動作原理は普通の変圧器と同じく1次側巻線に電流が流れると、鉄心に磁界ができて2次側にも電流が流れます。100Vの2本の電線をまとめて変流器の1次側巻線と考えます。

 さて、人が活線に直接触れたときの電流は人体を通って大地に流れます。そのとき人体に流れる電流はどの程度になるのでしょうか。人体への通過電流値とその影響は以下のように考えられています。
・0 ~0.5mA:電流を感知できない。
・0.5~5mA:ビリビリと痙攣を起こさない程度で、指や腕などに痛みを感じる。
・5 ~30mA:痙攣を起こし、接触状態から離れることが困難になる。
・30~50mA:強い痙攣を起こし、失神や血圧上昇をまねく。長時間の感電は死亡もある。
・50mA以上:強烈なショックを受け、心臓停止や火傷により死亡する可能性が高くなる。

<単相3線式の中性線は切ってはいけない>
 右図は築50年の我家の分電盤で、単相3線式で配電されています。主幹は今ではめったに見ないナイフスイッチが、分岐には過電流遮断器が使われています。3線式のうち 電圧線2本にはヒューズが使われていますが、中性線は銅板で接続されています。中性線にヒューズを使わないことは電気工事の常識だそうです。

 中性線が切れることを「欠相」といいますが、欠相したとき負荷にかかる電圧を考えてみます。右図で単相3線式の2つの負荷を電気機器とすると、N-L1とN-L2の負荷はできるだけ「平衡」になるように接続します。このとき負荷Aと負荷Bが完全に等しければ、中性線Nには電流は流れませんが、両者が「不平衡」であれば中性線Nに電流が流れます。
 負荷が「不平衡」ときに中性線Nが遮断されると、右図下のように 負荷Aと負荷Bが直列になって200Vが印加されることになります。その結果、電力の小さい機器(抵抗大)に過電圧が加わり、機器を損傷する可能性があるのです。

 さて、我家の分電盤の「ナイフスイッチ」を、近いうちに「単3中性線欠相保護付漏電遮断器」に変更しようかと思っています。この中性線欠相保護付漏電遮断器は構造や外形は漏電遮断器とほぼ同じで、過電圧検出リード線があり、中性線欠相を検出する位置に結線することで、その結線位置から電源側の欠相を検出します。過電圧検出の動作電圧はAC120Vを超えAC135V以下で、動作時間は1秒以内となっているようす。


ページ
トップ