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パワーエレクトロニクスの旗手-インバータ

(2021年11月11日)

 現代を電気技術の面からみると、まさにエレクトロニクスの時代です。その基幹部品はトランジスタであり、まずラジオ・テレビ・ステレオなど主に家電製品に使われ始めて、今ではPCやスマホなども生活必需品になりました。これらは電気の世界では「弱電」の分野です。弱電とはちょっと古い表現ですが、エネルギーの小さい電気というぐらいの意味です。
 これに対して大きな電力パワーを扱う「強電」の分野にも、エレクトロニクスの技術が適用される時代になりました。特に、パワートランジスタの出現で花開いた「インバータ」は、パワーエレクトロニクスの旗手として躍進を続けています。家電のエアコンに始まり、産業界ではエレベータ・エスカレータ・電気自動車・電車などのモータ駆動に、昨今のCO2対策の要の太陽光発電の交流化など、その技術は社会インフラに幅広く採用されています。
 今回は近頃よく耳にするこのインバータについて触れることにします。内容の多くは Energy Chord の「パワーエレクトロにクス」を参照しました。記して謝意を表します。

<インバータとは>
 
「ACをDCにする方法は?」と聞かれたら、学校の電気科を出た人ならすぐに回答できます。ところで「DCをACにする方法は?」と聞かれたら、電気科を出た人でも答えられる人は極端に少なくなるでしょう。ただ、「インバータって何?」の質問なら、「エヤコンのモータ速度を制御する・・・」というぐらい、一般の人でもインバータという言葉は知っています。
 インバータの一般的な構成を下図に示します。インバータは多くの場合、電源の交流(AC)をダイオードで整流して直流(DC)にする「コンバータ回路」と、直流をスイッチング素子で交流に変換する「インバータ回路」がセットになって使われます。
 下図でACをDCにするコンバータは、ACをダイオードで整流しコンデンサで平滑するだけですから簡単です。以降はDCをACに変換する狭義のインバータに絞って話を進めます。

<インバータの動作原理>
 ここからはDCをACに変換するインバータの動作原理を考えます。下図は最もシンプルなインバータの回路構成を示しています。下図上の左側はDCと負荷が順手でつながっており、右側はDCと負荷が逆手でつながっています。この2つの状態を周期的に変えることで、負荷にかかるパルス波電圧の向きを周期的に反転できます。出力電圧は矩形波になりますが、とりあえず交流です。基本的なインバータの構成はこんなにシンプルです。
 次に、下図上のスイッチ回路を、下図下の左側のように書き換えてみます。このように回路を書き換えることで、インバータ回路を3相出力に拡張するのに直感的に見通すことができます。単相ではスイッチング素子が4つ必要ですが、3相では6つでよいことになります。
 身近なインバータの利用例であるエヤコンは単相交流を整流して直流を作り、インバータは回転磁界が容易にできる3相交流にして、ブラシレス永久磁石モータを回すのが一般的です。

 ここまではスイッチを用いてインバータの仕組みを見てきましたが、実際の回路ではスイッチング素子としてパワートランジスタを使います。パワートランジスタには扱う電力が比較的小さい「MOS FET」と、モータ制御など大電力用途に使われる「IGBT」があり、近年はこれらスイッチング性能の優れたパワートランジスタが安価に提供されるようになりました。
 また、マイコンと次項で述べるPWM機能を組み込んだ、モータ制御専用のワンチップ半導体も作られています。このチップのパラメータを指定するだけで様々な周波数の正弦波を作り出し、モータの回転速度を自在にコントロールできるようになっています。

<正弦波交流の生成>
 実用的なインバータの出力は、できるだけ正弦波に近づけなければ使いものになりません。出力を正弦波にする考え方を下図で見ていきましょう。下図中央のスイッチS1のタイミングを調整することで、下図左側に示すようなパルス幅が動的に変化する矩形波電圧Vx(t)を作ります。すなわち、下図中央の点Xの電圧は矩形波電圧Vx(t)であり、電流がインダクタLを経ることで平滑化され、下図右側の正弦波に近い電圧Vout(t)となって抵抗負荷Rに加わります。
 インダクタLの効用は、そこを流れる電流は急激には変化できないため、インダクタLの右端の電圧Vout(t)は 比較的滑らかな電圧波形となります。このように交流のリップルを除くにはインダクタを使います。ちなみに、直流に乗るリップルを除くにはコンデンサが必要でした。
 下図の出力波形Vout(t)をよく見ると、プラス電圧を中心とした正弦波になっていることに気付きます。下図はスイッチ2個の例であり、上図「インバータの動作原理2」の左図に示すようにスイッチを4個にすれば、ゼロ電圧を基準に上下する正弦波電圧になります。

 上図左側の矩形波電圧Vx(t)の時間軸を広くして見やすくしたものが下図です。矩形波電圧のパルス幅が、赤点線で示す正弦波の高さに追随するように変化している様子が見てとれます。こんなパルス波を作る技術をパルス幅変調PWM:Pulse Width Modulation)といい、交流出力の電圧や周波数を自由に変化させ、出力につなぐモータなどを制御することをPWM制御といいます。


<スイッチング制御信号の生成>
 実際のインバータはスイッチング素子としてパワートランジスタを使います。具体的には前項のVx(t)のようにパルス幅が正弦波状に変化する信号を生成し、この信号をパワートランジスタのベースにつなげば、実際に使えるインバータが完成します。
 少し難しいですが、この信号を実現する代表的な方法が 下図に示す「三角波比較方式」です。この方法は下図左側の変調波(所望の波形)とキャリア(三角波)の高低を比較することで、比較器出力を生成します。下図右の比較器出力は、変調波の方が高ければON、低ければOFFとなるような信号になっています。

 変調波・キャリア・比較器出力の時間的な関連をより分かりやすくするために、この3つを1つの図にしたものが右図です。比較器出力は前項で示した「パルス幅の制御イメージ」の図と同じで、矩形波電圧のパルス幅が正弦波で変調されたものになっています。
 この比較器出力をスイッチング制御信号としてパワートランジスタのベースにつなげば、インバータの出力は大きなパワーになり、かつ変調波とほぼ同じ波形の正弦波になります。

<インバータの適用例>
 インバータはエアコンや洗濯機など家電製品に広く使われています。産業界ではエレベータ・エスカレータ・電車など社会インフラのほか、工場の組み立てロボット・工作機械などに幅広く使われています。さらに、昨今のCO2の削減など自然環境の保護の観点から、電気自動車の駆動用モータの制御に、また太陽光発電(直流)の電力を一般の電力系統につなぐために、直流→交流の変換をするにもインバータ技術は欠かせません。
 世界中で消費する電力のうち、40%〜50%がモータを回すために使われているといわれています。しかも今後は自動車がエンジンからモータに変わるので、この割合はさらに高まることが予想されます。このようにインバータは電力制御のキーテクノロジーとして今後も発展し続けるはずです。下図のような電気自動車への適用事例を見つけたので転載して紹介します。


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