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交流電気は貯められない

(2022年01月01日)

 「交流電気はなぜ貯められないの?」「直流にして蓄電池に貯めたらいい?」「交流電気は使う量と同じ量の電気を同時に発電しなければならない?」「電気の周波数はなぜ50Hzや60Hzなの?」「日本の総発電量の3/4は火力発電が占めている?」「ピーク電力を担う発電方式は?」「再生可能エネルギーによる発電はパワーエレクトロニクスの寄与が大きい?」・・・
 今回は目に見えない、分からないことだらけの電気の世界を、さっと俯瞰してみましょう。

<交流電気はなぜ貯められないの?>
 直流の電気を貯める蓄電池の容量が大きくなったといっても、各家庭で必要とする電気を供給する大きさにはまったく足りません。技術面でもコストから見ても、実用化は簡単にはできません。ですから、交流電気を使って需要があるときに発電して供給するしか方法はありません。
 電気を使う(需要)量と電気を作る量(供給)は、同じ時に同じ量にするということです。交流電気の需給バランスは、右図のように「同時同量」でなければならないのです。電気は「究極の生鮮品」ともいわれ在庫を持つことはできません。発送配電の運用から、安全の法基準まですべてはここから始まります。
 電気の需要が多くなれば発電機の速度が落ちて周波数は小さくなり、逆に需要が少なくなれば発電機の速度が上がり周波数は大きくなります。電力会社が需給バランスの目安にするのがこの周波数で、定格周波数の50Hzあるいは60Hzの「±0.1~±0.2」の範囲で運用しているようです。

 この周波数の値が大きく崩れてしまうと、安全装置が働いて発電所が停止して、場合によっては予測不能な大規模停電をまねくことにもなります。2018年9月に発生した北海道全域の停電「ブラックアウト」は、この電力需給バランスの崩壊が原因でした。
 電力会社は予測される電力消費(需要)に応じて、発電計画(供給)を決めます。1年の中でもっとも電力使うのは冷房が使われる夏で、それも工場などが稼働する昼間です。そして、晴れ・曇り・雨など天候の違いによっても需要は変動します。これまた刻々と変化する再エネ分(お天気による急変が多い)を含めた発電量の調節は難しい技術ですが、多くの発電所の出力を増減して全体の需給量を常に一致させ続けています。

<世界の電圧と周波数の現状>

 世界主要国の電圧と周波数の現状を下図に示します。世界の標準電圧は220~240V、または110~130Vが一般的な電圧です。日本の標準電圧100Vは、世界で最も低い電圧です。電圧は小さい方が感電しても、より安全ということでそうなったようですが・・・
 周波数は 北米・中米、ブラジルなど南米北部、サウジアラビア、それに日本を含む東アジアが60Hzです。ヨーロッパ・中近東・アフリカ、アルゼンチンなど南米南部・東南アジアなどは50Hzです。1国の中で50Hzと60Hzがそれぞれ独立した系統を持ち、かつ両者が周波数変換設備で連係しているのは日本だけで、極めて特異な国といえます。
 

<電力の周波数は100Hzや500Hzではダメ?>
 テスラとエジソンによる電流戦争終わって交流が使われだした初期の頃の周波数は、高い方は133×1/3Hzから低い方は25Hzまで、8種類ほどもの周波数が使われていました。しかし、あまりに低い周波数では電灯にチラツキが発生すること、発電機やモータでは50Hzや60Hzで最適と考えられてきて、第1次世界大戦(1914.7.28~1918.11.11)後になって、ようやく50Hzや60Hzに統一されました。
 ならば、50Hzや60Hzのどちらが有利か、ということを考えてみましょう。まず電気利用の立場で考えてみます。電気機器はその周波数を高くすると、機器寸法は小さくなるという自然法則があります。電力機器は鉄(珪素鋼板)と銅(巻線)からできているので、60Hzでは20%の余裕をもって50Hzより鉄と銅の量は少なくてすみます。私の10数年に亘るモータ設計の経験からは、機器の大きさは60Hzの方が断然有利であることを実感しています。
 ちなみに、飛行機は狭い室内の電力用に周波数の高い発電機を積んでいます。例えば、ボーイング787は周波数400Hzの発電機を6台積んでいますが、形状と重量はかなり小さいはずです。

 一方、電気を遠くまで送る送配電線を考えてみます。長い送電線の1本は、等価的に右図のように考えることができます。ここでR:線路抵抗、L:線路インダクタンス、G:漏れコンダクタンス、C:浮遊静電容量です。周波数が高くなるとLとCの影響を多く受けます。Lは高い周波数を通しにくくし、Cは高い周波数を大地にバイパスします。このように電気を遠くまで送るには、60Hzの方が50Hzよりはるかに不利です。ましてや 100Hzや500Hzなどにすると、消費地に着いた頃はかなりの電気がなくなってしまいます。
 さらに、送電線の構造見てみましょう。架空送電線は右図のような鋼心アルミより線が用いられます。アルミは銅より軽く、抗張力の不足は鋼心を用いて補強しています。電線径が大きく周波数が高くなれば、電線の表皮に電流が多く流れる「表皮効果」の影響で電力損失が増えます。
 このように電力機器の形状や重量と、効率的な長距離送電路のインピーダンス、送電線の構造などの技術的側面や、米英独などでの長い時間をかけての経験から、電力周波数が50Hzないしは60Hz落ち着いたのは、今となっても合理的な値だと腑に落ちます。

<日本の発電の種類の供給量>
 下図は経済産業省エネルギー庁が発表している「2021年度エネルギー白書」のデータです。2009年度までは、電力会社10社のみが集計対象でしたが、2010年以降は製鉄・重工業メーカーや再エネ(再生可能エネルギー)業者など全体を集計対象としています。
 1970年代の2度の石油ショックを経験した日本は、電源の多様化を進めてきました。その後燃料の主力は石油に変わって、石炭とLNG(液化天然ガス)、そして原子力が担ってきました。そして2011年の東日本大震災以降は、原子力がほぼゼロに減り、その減少分の大半をLNGでカバーしています。
 2019年時点で日本の火力発電は、LNG:37%、石炭:32%、石油7% を合わせて76% を占めています。再エネ(再生可能エネルギー)発電は10%です。今の地球環境がいつまでも続くように、新しいクリーンエネルギーを作り出してほしいものです。


 電源はエネルギーの種類によって、右図のように「ベースロード電源(薄茶)」「ミドル電源(薄緑)」「ピーク電源(青色)」に分けて、その即応性を踏まえて使い分けています。
 なお、LNGは天然ガスをマイナス160℃に冷却凝縮し、容積を600分の1にします。LNG船1隻で約240万戸/月の電力をまかない、燃焼時のCO2排出量は少なく、比較的クリーンな化石燃料といえます。

<再エネ発電の現状>
 右図は経済産業省 作成の2019年度の再生可能エネルギー(再エネ)の導入状況です。日本の再生可能エネルギーの設備容量は世界第6位、太陽光発電の設備容量は世界第3位となっています。
 まず、下図のような太陽光発電についてです。ソーラーパネルは10kW未満の住宅用のであれば10年間、10kW以上の産業用であれば20年間、電力会社は固定価格での買取りが義務付けられています。2020年度は21円/kWh、2021年度は19円/kWhでした。
 太陽電池の素子1個あたり、電圧は0.6~0.7V、1cm2あたり30mA程度の電流になり、これを直列に接続することで所定の電圧と電流を確保します。
 
 次に風力発電についてです。私は大阪大分間の飛行機をよく利用します。豊後水道に突き出た愛媛県佐田岬半島の上空で目に入るのは、数10基の風車が林立し、時を忘れたかのようにゆっくり回っている風景です。半島は東西50kmほどあり、しばしこの景観を楽しめます。
 風車の直径は70mほどあるようですが、あまりにもゆったりと回っているので、これで電気を作れるのかと思うこともあります。風車は歯車で増速され、その先の発電機は構造が簡単堅牢な誘導発電機を使うことが多いようです。ただ、風まかせですから発生電圧は低くて変動し、周波数は10Hzから20Hzぐらいに変動します。強い風が吹いて危険なときは、110Hzぐらいを超えると風車を停めるようです。

<同期電源とインバータ電源>
 ここで、従来の水力・火力・原子力発電による電気の「質」のすばらしさに触れておきます。これらはそれぞれのエネルギーで同期発電機を回すだけで、大きな電力を供給できて、周波数は常に50-60Hzの一定になり、しかも波形は完全な正弦波です。使う上でまったく文句のない完璧な電気です。こんな電源を「同期電源」といいます。
 一方、太陽光発電・風力発電、さらに中小水力・バイオなどの再エネ発電では、その発電原理が従来のようなきれいな交流電気ではありません。いずれの場合も一般配電系統につなぐために、周波数を50Hzや60Hzに、電圧を100Vにしなければなりません。それができるようになったのは2000年ごろから急速に発展したパワーエレクトロにクスのおかげです。特にパワエレの旗手「インバータ」が欠かせません。こんな電源を「インバータ電源非同期電源)」といいます。

 最後に、再エネの主力電源化は、技術的にきわめて難しいことに触れておきます。それは同期電源は自ら回転エネルギーを持ち、いわゆる慣性力・同期化力を維持することができるのに対して、インバータ電源(非同期電源)はそれらの能力を持たないことです。
 インバータ電源は電力系統を安定的に運用する能力が、本質的に欠けているということです。再エネを主力電源化するには、電気(周波数・電圧・波形)の品質低下や大規模停電への対応など、非常に難しい技術が必要となります。


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