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日本の電力事情と50Hz-60Hz併存の影と光

(2021年12月01日)

 一般の人がちょっと危険そうな電気の存在を意識するのは、道路に林立する電柱と配電線、そこから家の外壁への引き込み線、家の中のコンセントにつなぐ家電品ぐらいでしょうか。今回は電気がどこで作られ、どんなルートを経て私たちまで届くのか、まずその概要を見ていきます。
 そして、日本では東に50Hz、西に60Hzの2つの周波数が存在しています。1国を2分して異なる周波数を採用している国は、世界で日本だけです。2つの周波数があっても、それぞれの地区内の人々にとって周波数は1つですから、それで何の不都合も感じないでしょう。ただ、東西で周波数が異なると、災害時に両者間の電力融通が簡単にはいきません。50Hz-60Hzの併存を俯瞰すると、昔は「影」ばかりが目立ったのですが、近頃は「光」も見えてきた?

<発電所から消費地までの電気の流れ>
 電気の大まかな流れは下図に示すように、「発電所→送電線→変電所→配電線→消費地」となります。発電所は今まで水力・火力・原子力がメインでしたが、近年はクリーンエネルギーが叫ばれ、風力・地熱・太陽光なども増えてきました。大きな発電所では電圧を10万Vを越える高電圧にして、多くの変電所を経由しながら徐々に降圧して消費地に届けます。
 電気はちょっと間違うと危険な施設にもなってしまいます。電気の安全を図るための省令「電気設備技術基準」で、安全のための規程が細かく決められています。まず、この法で決められた電圧の種類を確認しておきましょう。電圧の種類は次の3種に決められています。
・低圧:600V以下
・高圧:600Vを超え7000V以下
・特別高圧:7000Vを超えるもの、配電用変電所の前まではすべて特別高圧です。
 (超高圧という電圧区分はありませんが、17万Vを超える特別高圧をこう呼ぶようです)


<消費地の配電線を知ろう>
 住宅街の道路には右図のような電柱が林立しています。電柱は倒壊を防ぐため全長の約6分の1を地中に埋めるように決められています。
 日本の電柱の電線は右図のように、上から避雷線、高圧配線の3相6600V、低圧配線の単相3線式100/200Vと順に設置しています。図の変圧器は柱上変圧器またはポールトランスと呼ばれ、高圧の6600Vを低圧の100/200Vに降圧して各家庭に届けます。
 柱上変圧器の低圧側 100/200Vの中性点は、電柱近くで接地(アース)されています。この接地は安全面から法で決められており「B種接地」と呼ばれます。

<50Hz-60Hzと電気機器設計>
 日本で電力事業を立ち上げるとき、東京電灯(現東京電力)は50Hzのドイツ製の発電機を導入し、大阪電灯(現関西電力)は60HzのアメリカのGE製の発電機を導入しました。これが契機となり、日本は世界でも例をみない1国2方式の周波数50Hz-60Hzの併設が始まりました。
地球は極めて大きな物体であり非常に電位が安定しているので、大地と低い抵抗で接続すれば低い電位に安定します。通常は大地の電位はゼロと考えて差し支えありません。
 電気機器設計においては周波数50Hz-60Hzの併設に、必然的に向き合わざるを得ません。その理由を理論的に見ていきましょう。機器の電圧が正弦波であるとき、実効電圧V、コイル巻数n、周波数f、鉄心を通る磁束Φ の関係はよく知られた次式になります。この式はファラデーの法則から簡単に導けます。
 V = KnfΦ ただし、V:実効電圧、K:定数、n:巻数、f:周波数[Hz]、Φ:磁束[Wb]
 この式に従った機器設計の出発点は、まず実際に使う周波数fを決めることから始めます。電気機器は鉄心(電磁鋼板)にコイルを巻いた構造が一般的ですから、次に磁束が通る鉄心を磁束が飽和しない適度の磁束密度になるように巻き数nを決めます。
 上式から電圧が一定なら、周波数fと磁束Φは反比例することが分かります。周波数60Hzで専用設計したモータがあるとします。このモータを50Hzで運転すると、磁束Φを増やそうとして励磁電流が大きくなって、モータは過熱して使いものになりません。
 逆に、周波数50Hzで専用設計したモータを60Hzで運転すると、磁束Φを通す鉄心は20%の余裕をもってそのまま使えます。見方を変えれば、60Hz専用に設計すれば鉄心はもっと小さくできるということです。ちなみに、電気部品や電気機器はその周波数を高くすると、機器寸法は小さくなるという自然法則は上式からもいえます。  

 私は家電品の誘導モータを10数年に亘り設計してきましたが、小電力モータは50Hzで設計します。こうすることで 60Hzでもそのまま使えて共用品となります。ユーザにとっては住居先や引っ越し先の周波数を心配をする必要がありません。メーカにとっても共用品にすれば、品種が半分になり管理が容易になります。最近ではうれしいことに、エヤコンのようにインバータが内蔵されたヘルツフリーの製品も登場してきています。

<周波数変換所>
 ところで、発電機・電動機・変圧器・交流電車などの大型機器では、50Hz-60Hzの共用というわけにはいきません。周波数20%の差は大き過ぎます。高価な電磁鋼板を大量に使う大型機器では、周波数ごとの専用設計にするしかありません。さらに、電力の世界では電力会社間の電力融通は避けて通れません。周波数が同じなら電線をつなぐだけでOKです。ヨーロッパではどの国も周波数は同じ50Hzですから、容易に国を跨いで電力融通が行われています。
 日本では本州のほぼ中央、静岡県の富士川と新潟県の糸魚川あたりを境に、東と西で周波数が異なっており、災害に備えて大掛かりな周波数変換設備が必要になります。周波数を変換するところを「周波数変換所」といいます。まず1965年(昭和40年)に佐久間周波数変換所(浜松市佐久間町)が設置され、その後 新信濃変電所(長野県朝日村)や東清水変電所(静岡市)に周波数変換設備が追加されてきました。
 
 2011年の東日本大震災では、東北地方への電力融通の不足が顕在化しました。これを契機に新信濃変電所(長野県朝日村 50Hz側)の変換設備を増強し、連携する飛騨周波数変換所(岐阜県高山市 60Hz側)を新設することになりました。8年もの歳月をかけた大工事は、これまでの120万kWから210万kW まで拡大し、2021年3月31日にようやく稼働を始めました。ただ、この設備も災害がなければ、出番はそうありません。写真は新設の飛騨周波数変換所の全景です。
 下図左は60Hz地区から50Hz地区へ電力を融通する仕組みを示していますが、その逆も可能です。60Hz側の飛騨変換所は「AC60HzDC」、50Hz側の新信濃変電所は「AC50HzDC」の変換設備を備えています。両所間は90kmほどありますが、その間は「架空線による直流送電」で結んでいます。周波数変換の核となる電力用半導体は光直接点弧サイリスタを採用し、下図右のようにこれを数百個組み合わせた「サイリスタバルブ」と呼ばれる装置にしています。

参考:新幹線の周波数変換
 東海道新幹線(1964年:昭和39年開業)は電圧25000Vの交流を受電、車内の60Hzの変圧器で降圧しインバータでモータを駆動しています。ただ、東西で異なる周波数を跨ぐことになりますが、全区間を60Hzで走っています。東京や神奈川などの50Hz地区では、沿線4ケ所に「周波数変換所」を設けて60Hzに変換して電気を供給しています。
 北陸新幹線(2015年:平成27年金沢まで開通)は 東西の周波数の異なる区間を走りますが、パワーエレクトロニクスの発展で車上に周波数変換装置の搭載が可能になり、受電する周波数を統一する必要はなくなりました。ただ、東京発では 50Hz-60Hz-50Hz-60Hz 地区を跨って走るため、受電する周波数を3回切り替えることになります。

<世界に誇る日本の AC⇔DC 変換技術> 2022.2.15 追記
 前項で述べた飛騨変換所や新信濃変電所の設備は、非常事態でなければ出番はそうありません。もったいない気もしますが、パワーエレクトロニクス時代の今では、ここで築かれた AC⇔DC 変換技術 が海底ケーブルによる電力融通などに大いに役立ってきています。
 北海道と本州の間は既に1979に海底ケーブルを敷設し、直流60万kWで電力融通が可能でしたが、2018.9.6 に起きた北海道胆振地方の大地震では、北海道全域にブラックアウトが発生しました。この連携容量不足に伴う混乱を契機に、2019年3月青函トンネルを利用した30万kWの直流幹線を稼働させました。
 四国と関西の間には 紀伊水道直流連系が、2000.6.22 に容量140万kWで運用を開始しています。その概要図を下図に示します。これで日本全国の電力融通網が 50-60Hz変換を含めてほぼ完成しました。(由良開閉所:和歌山県由良町、紀北変換所(同かつらぎ町)

 さて、2022.2.8 付けの日経新聞によると、日立と東芝がそれぞれヨーロッパにおいて、海底ケーブルによる直流送電システムの受注を報じています。日立は既にドイツとノルウェーを海底ケーブルで結ぶ直流送電システムの運転を開始し、イギリス 北海の洋上風力発電所(2023年運転開始予定)向けの直流送電システムも受注したとしています。また、東芝はバルカン半島モンテネグロの豊かな水力発電による電力を、400kmも離れたイタリアに海底ケーブルによる直流送電を始めたと報じています。
 ケーブルによる長距離送電は、交流より直流が絶対的に有利です。交流ではケーブル線間の浮遊容量の存在が無視できず、長距離になると電気が途中でバイパスします。加えて、絶縁体の誘電体損が発生します。さらに、必要な絶縁耐力が直流より√2倍大きくなります。
 近々のパワーエレクトロニクス発展、電力不足からの海底ケーブルの需要増などと、苦労して培った日本の AC⇔DC 変換技術 が相俟って、世界的なケーブルによる直流送電の対応に貢献できているようです。日本の50Hz-60Hzの併存の「影」に、「光」が差し始めたようです。


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